当教室で行われている研究の一部を紹介します。
消化管腫瘍発生過程の分子病理学的解析(橋本大輝・関根茂樹)
本邦の内視鏡技術は世界的にも最先端であり、発癌の初期病変から進行癌に至るまで、多数の症例が詳細な観察とともに蓄積されています。私たちは、これらの症例群を用いて、消化管腫瘍がどのように発生し、どのように進行癌へと至るのかを、組織学的観察に基づいて分子生物学的解析を行うことで、その全体像を明らかにすることを目指しています。
私たちの研究は、大腸鋸歯状経路をはじめとする消化管発癌過程の分子病態の理解に寄与しているだけでなく、新たな疾患概念の提唱にもつながっています。これらの成果は世界的な腫瘍分類の標準である WHO 分類にも反映されており、私たちはその執筆に参画するとともに、多数の論文が引用されています。

腎病理研究室(橋口明典)
腎病理研究室では、慶應義塾大学病院と関連施設の腎生検(年間約500例)の検査を受託しています。通常、検査技師が撮影した画像を観察するのみである免疫蛍光、電子顕微鏡検査も、デジタル技術を駆使し、病理医自らが病理学的知識を前提とした詳細な観察を行っています。腎病理診断のトレーニング環境としても最適です。光・電子相関顕微鏡法により電子顕微鏡レベルでの分子局在の検討も行っています。

ヒト腫瘍・非腫瘍組織における免疫応答の病理学的解析(紅林泰)
腫瘍の多くは、周囲の環境(血管、結合組織、線維芽細胞など)に依存して浸潤・増殖することが知られていますが、日常の病理診断においては、こうした腫瘍周囲の環境(腫瘍微小環境)が腫瘍ごとに大きく異なることが観察されます。また、腫瘍は免疫抑制的な微小環境を形成することで、宿主の抗腫瘍免疫応答から逃避していることも明らかになっています。私たちは、ヒト腫瘍が形成する多様な腫瘍微小環境を解析することで、腫瘍がどのような機序で特徴的な微小環境を構築するのか、また、そのような微小環境を形成する生物学的意義は何かを明らかにすることを目指しています。さらに、得られた知見に基づき、腫瘍に対する治療をどの順序で選択することが最適か、そして腫瘍微小環境に介入し得る新規治療標的についても検討を進めています。腫瘍に対する免疫応答は、慢性炎症性疾患や自己免疫疾患における免疫反応と多くの共通点を有しており、また腫瘍自体が慢性的な炎症や線維化を背景として発生することも少なくありません。そのため、私たちはヒト非腫瘍組織における免疫反応にも関心を持ち、腫瘍免疫との連続性・相違点の両面から検討を行っています。

Kurebayashi Y, et al. Hepatology. 2026;83(2):203-205.
Kurebayashi Y et al. Clinical Cancer Research. 2024;30(24):5666-5680.
Kurebayashi Y et al. Hepatology. 2022;75(5):1139-1153.
Kurebayashi Y et al. Hepatology. 2018;68(3):1025-1041.
慶應発サイエンス 顕微鏡で観察するがん免疫の世界とその分類
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/science/201903
胆管癌の分子病理分類と臨床病理学的意義(久保田直人)
癌治療が発展しつつある現在においても、胆管癌は未だに予後不良な癌の一つです。これまで一括りに語られることの多かった胆管癌ですが、近年、その多様性が明らかになってきました。私たちは胆管癌の病理形態に注目し、その分類と臨床病理学的な意義について研究を行っています。これまでの研究では、形態に基づく分類が背景の遺伝子異常・遺伝子発現と相関することに加えて、病変内の血管分布が画像所見と関連し、臨床的な予後の予測にも役立つことが明らかになりました。自身の研究に限らず、本学は臨床科との共同研究やディスカッションの垣根が低く、疾患を多面的に理解できる恵まれた環境にあります。研究成果が適切な診断や治療層別化に実用されることを目指し日々研究を行っております。

肝細胞癌の血管構造(松田紘典)
肝細胞癌は富血管性の腫瘍であり、その血管構造は形態学的・機能的に多様です。通常の肝組織ではみられない不対動脈や、類洞血管の中でも毛細血管様のもの(capillary pattern)や腫瘍細胞を囲繞するクモの巣状の血管(vessels encapsulating tumor clusters; VETC)が観察されます。近年、これらと腫瘍微小環境との関連や、臨床病理学的意義が明らかになってきました。私たちは、磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)撮影用造影剤の輸送タンパクの分布が、これらの微小血管構造と相関することを発見し、血管構造と放射線画像所見との関連について報告しました。

